【湯島(の天神)】
「かむろ蛇」に登場する大吉は煙草屋で、色白の華奢な男として描かれている。彼はかつて湯島の茶屋にいたことがあるという。
また「河豚太鼓」では、菊園一家が本郷湯島の天神の社殿改築落成にともなう、正月二十五日の御縁日から十六日間のお開帳に出かけている。菊園一家が湯島へ参詣したことが、玉太郎行方不明事件の発端となった。
現在では学問の神様、合格祈願で名高い湯島天神だが、江戸時代には、天保の改革で禁止されるまでは富くじで知られた神社でもあった。
半七捕物帳の「かむろ蛇」や「河豚太鼓」が描く安政・文久のころには、富くじはすでに禁じられていたはずだが、それでもなお湯島天神は多くの人を集める賑やかな場所だったのだろう。
また、湯島天神の始まりは、太田道灌が北野天神を江戸城中に勧請したことによると言われている。
湯島天神の周辺は、上野広小路にも近く、当時から多くの人で賑わう場所だったのだろう。
茶屋も多く、人の往来も絶えなかったはずである。そうした雑踏の中では、子どもが迷子になってしまえば、たやすく見つけ出せないほどの混雑だったのではないかと思われる。



半七捕物帳を読むと、湯島天神は単なる名所や信仰の場ではなく、人が集まり、願いごとをし、遊び、時には思いがけない事件の入口ともなる場所として描かれていることがわかる。












